(5)特殊相対性理論からの説明

※『止揚論』297ページ。〈English〉

■以上により明らかとなった物質と物質の認識の同一性、より厳密に言えば「物質たる諸可能性の自由意思的・意識的選択としての認識 が、とりもなおさずその旧物質たる旧諸可能性の乗り超えと新物質たる新諸可能性の措定とである。」という事実を、一層端的に示す現代物理学の理論は、アインシュタインの特殊相対性理論である。

※『宇宙超出論』118ページ以下。

■ニュートン力学は、みなさんの常識と同じように、「光を含めてすべての物質は、認識者の認識とは無関係独立に存在する」という考え方に立っていました。そうだとすれば、「光が空間を伝わる速度は、空間に対して静止している認識者から見ると毎秒30万キロメートルだが、空間に対してたとえば光と同じ方向へ毎秒1万キロメートルの速度で飛んでいるロケットに乗っている人から見れば毎秒29万キロメートル、光と反対の方向へ毎秒1万キロメートルの速度で飛んでいるロケットに乗っている人から見れば31万キロメートルである」はずです。

■人間はいわば地球というロケットに乗って空間を飛んでいるわけですから、地球上の一点から発射され毎秒30万キロメートルの速度で空間を四方に伝わってゆく光が、発射地点から角度にして90度ちがう方向に等距離に置かれた2つの鏡にあたり反射されてそれぞれ発射地点にもどってくる時刻は、ちがうはずです。逆に言うと、その違いを測定すれば、そのとき地球が空間に対してどんな速度でどの方向に動いているか計算できるはずです。そこで、マイケルソンという科学者が、そのわずかな違いを測定できる装置を発明し、モーリーという人の協力をえて、その違いを測定しました。ところが、意外や意外、何度実験しても、光はまったく同時にもどってきたのです。

■この実験結果を、アインシュタインは、「相対的に運動しているどの観測者が各自の運動方向に対してどの方向に伝わる光を見ようとも、光の伝わる速度はすべての観測者に対してつねに一定(毎秒30万キロメートル)である」ことを示していると考えました。これを「光速度不変の原理」と言います。

■先ほどの説明から分かるように、もし光という物質が、認識者の認識と無関係独立に存在するなら、こんなことは絶対にあり得ないわけですね。ですから、この事実は逆に、「光という物質は、相対的にどの方向へどんな速度で運動をしているどの人も、つねに毎秒30万キロメートルの速度で伝わると、認識するものだ」ということを示しています。つまり、各認識者の各認識から別個独立に、光という物質が存在するわけではないのです。この点でまず、「物質が認識されること」と「物質が存在すること」とは、同じことだ、ということになります。

■さてアインシュタインは、「光速度不変の原理」に合致するように、ニュートン力学の諸法則を数学的に書き改めました。そうしたら、「認識者(観測者)に対して運動している物体の運動方向の長さは、静止している時の長さにくらべて運動速度が増すにつれて短くなり、運動速度が光速度に近づくとゼロに近づく」「認識者に対して運動している物体にとって時間の歩み(経過速度)は、静止している時のそれにくらべて運動速度が増すにつれて遅くなり、運動速度が光速度に近づくとゼロに近づく」「認識者に対して運動している物体の質量は、静止していた時の質量にくらべて運動速度が増すにつれて重くなり、運動が光速度に近づくと無限大に近づく」などという、従来だれ一人想像さえしなかった法則が続々と導き出されたのです。

■つまり、物体の長さや重さと時間の歩みは、物体に対する認識者の相対的運動状態がどうかで、ちがってくるのです。したがってまた、互いに運動している複数の認識者が同一の物体や出来事を認識すると、長さ・重さや経過時間が認識者ごとに異なるものとなります。そして、その実際に認識される複数の異なる長さ・重さや経過時間がすべてまったく同じ権利をもって存在し、それら以外に認識者から独立の客観的なただ一つの長さ・重さや経過時間は存在しません。この点でも、「物質が認識されること」と「物質が存在すること」とは同じことです。

☞宇宙超出論の世界観