刑事訴訟法・少年法

 

(1)被疑者取調べの適法性について

■刑事訴訟法の論点の中でも、逮捕・勾留中の取調べ受忍義務を巡る議論ほど、捜査・裁判実務と学説とが先鋭的に対立する論点はほかにはない。

■さて、捜査機関による被疑者取調べは、どのような場合に違法とされるべきだろうか。被疑者取調べの適法性は刑訴法第198条1項の解釈問題であるが、判例はなぜか刑訴法第197条1項の解釈をしている(最二小決昭和59年2月29日)。しかし、第197条の解釈では、被疑者取調べにおけるもっとも重要な考慮事項である「黙秘権」(憲法第38条1項)の観点が欠落してしまうので、解釈論としては妥当ではない。

■それでは、刑訴法第198条1項の解釈をした場合、被疑者取調べの適法性はどのような基準で判断されることになるのだろうか。

高内 寿夫『公判審理から見た捜査―予審的視点の再評価―』(成文堂、2016年)270頁以下。

(2)参考人取調べの録音・録画について

■2016年の刑事訴訟法改正によって、被疑者取調べ全過程の録音・録画が実現した。その範囲は裁判員裁判対象事件と検察が独自に捜査した事件である。

■さて、被疑者取調べの録音・録画は被疑者の主体性を確保する上で重要な一歩であるが、捜査過程の可視化および誤判の防止という観点から見ると、参考人(証人)の捜査段階における取調べについても録音・録画を行うべきである。

■とりわけ、公判における充実した証人尋問を実施するために、捜査段階の参考人取調べの録音・録画は有用である。

■それでは、参考人取調べの録音・録画は、どのように実施されるべきであろうか。また、公判前整理手続および公判廷において、参考人の録音・録画媒体はどのように取り扱われるべきだろうか。

◆同『公判審理から見た捜査―予審的視点の再評価―』(成文堂、2016年)238頁以下。

(3)「特定少年」の保護処分とは

■2021年(令和3年)5月21日、「少年法等の一部を改正する法律」が成立した。改正少年法は、18歳・19歳の者を「特定少年」として少年法の適用範囲とする一方、特定少年に対して成人と同じ扱いとする傾向を顕著に示す内容であった。

■ところで、この問題は、当初、少年法適用年齢を18歳未満に引き下げるべきかという議論から始まったものである。2017年3月から開始された法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会においても、当初は少年法適用年齢を18歳未満に引き下げることを念頭に議論が進められていた。それがどうして、改正法は当初の内容と異なったものとなったのだろうか。

■とりわけ、特定少年の保護処分は、「犯情の軽重を考慮して」すなわち「行為者の責任に応じて」決定される。特定少年の保護処分は、従来の保護処分と刑罰との中間形態のごとき性質を有する。

■従来、非行少年の健全育成を目指す保護処分と制裁としての刑罰とはまったく性質の異なるものと考えられてきた。

■それがどうして、法制審議会少年法・刑事法部会は、このような形態の保護処分を認めたのだろうか。この考え方の根底にある思想とは何だろうか。

◆同「2021年改正少年法の検討」國學院法學第59巻4号(2022年)1頁以下。 

(4)非行少年に対する処分は「保護処分」でよいのか

■1997年に発生した神戸連続児童殺傷事件の頃から、少年法の保護主義(保護原理)は世論の厳しい批判にさらされている。その根底には、 「なぜ凶悪な事件を引き起こした少年を保護する必要があるのか」という素朴な疑問があるように思われる。

■しかし、少年法における保護主義は一般的な意味における「保護」とは異なる概念である。一般的「保護」は、危険や困難から対象者を守るという福祉的意味合いで用いられるが、少年法では少年に対して少年院送致のような強制的な収容処分を認めているし、14歳以上の少年に対しては刑罰を科すことも許している。

■少年法の基本思想が保護主義と呼ばれるようになった経緯を見ると、明治期以来の民間人による釈放受刑者の救済活動が「保護」の名のもとに進められたことを背景として、大正少年法制定に際して、アメリカ少年裁判所のパレンス・パトリエ思想が導入されたことが大きいと思われる。

■しかし、大正少年法の立法過程をみると、保護処分という概念には、少年の保護とともに、社会の保護(保安)という意味が含まれていたことがわかる。

■以上のとおり、少年法上の保護主義は一般的な保護の用語法とはかなり異なった概念であり、また、歴史的経緯から相当に錯綜した意味内容を付与された概念である。

■こうした点を踏まえると、非行少年の健全育成のための処分を「保護処分」と称すること、また、少年法の原理を「保護主義」と呼ぶことは、再考の余地があるのではなかろうか。

◆同「少年法における『保護主義』について」『刑事法学と刑事弁護の協働と展望』(現代人文社、2020年)781頁以下。