遠野物語

■1910年(明治43年)に発表された柳田国男の『遠野物語』は、民俗学を世に知らしめた名著であり、今日でもその輝きは衰えない。この民話集の冒頭を飾るのが、遠野の郷を囲む3つの山の女神の話である。

■遠野は四方を山に囲まれているが、その中でも最も高く秀麗なのは、北に位置する早地峰(はやちね)である。その次が東の六角牛山(ろっこうしやま)、その次が西の石神山(いしがみやま)である。大昔に女神がいた。 女神は、3人の娘を連れてこの地にさしかかり、高原にある伊豆権現(いずごんげん)社に一夜の宿をとった。

■母の女神は、「今夜よい夢を見た娘に、もっともよい山をあげよう。」と3人の娘に語って床についた。夜が更けて、天より霊華(れいか)が降りてきて、姉の女神の胸の上に止まった。末の女神がその華(はな)に気づいて、こっそり取り上げ、ちゃっかり自分の胸の上にのせてまた眠りについた。結局、末娘が最も美しい早池峰山をもらい、残る2人の姉たちが六角牛山と石神山をもらった。

■末っ子は要領がよく、調子がよい。この話は、遠野の人たちが、子どものころに要領のよい末っ子が結局大成するといった事実を共有していて、またそれを好意的に受け入れていることを示しているように思われる。神様は人のこころの反映である。

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