神道の社会的機能

■神道を宗教だと考えると、神道は俗世から一線を画した精神世界の事がらという話になる。しかし、神道は、この俗世の中で一定の機能を果たすことを目的として生まれたのではなかろうか。

■私は、神道(神まつり)が生まれた背景には、人間および人間集団に生じた2つの変化が関係していると考える。

■ひとつは、共同体が大きくなるにつれて、それをまとめる仕組みが必要になったことである。これは、わが国の場合、とくに稲作の普及と関係していると思われる。水を溜める田んぼを作り、畔を作り、水路を作り、田起こしをし、田植えをし、稲刈りをすることは、共同体全体の仕事である。

■共同体というのは、何もしなければ崩壊の危機にさらされる。だから、人々の意識に働きかけて、共同体を維持するための仕組みを設ける必要が生じた。「まつり」というのは、そのために機能するものである。

■政治を「まつりごと」というのはこの観点である。この点から見ると、神道と政治とが結びつくのは必然的なことである。

■もうひとつの変化は、人間が財を蓄え始めたことにより、逆に、将来に対する不安を抱くようになったことである。これもおそらく稲作の普及が背景にあるものと思われる。未来は常に不確かだから、この不安から解放され、精神的な安定を図るための仕組みが社会の中に必要となった。八百万の神々への祈願はこの欲求を満足させるものである。

■人々の心の中に、共同体を維持しなければならないという意識と将来に対する不安とが生じたときに、これらを解消する仕組み、より積極的に言えば、共同体を活性化させ、また、個人の魂を活性化させるための仕組みが必要になった。この役割を担ったのがわが国の場合、神道であったのではなかろうか。

■なお、現在では、将来への不安は個人的な事がらが多いが、個人主義の意識が芽生える前はそれも共同体の問題であったので、元来、神道は共同体を維持するという機能を果たすために生まれたものと思われる。

■神道は共同体と個人の精神安定剤である。

☛神道とは何か